蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
二の三 挑発
「帝がお呼びです」
恭しくそう言われて、龍星は珍しく仕事の手を止めた。
毬を左大臣家に返した翌日。
夕べは淋しさのあまり眠つけない自分に苦笑した。
たった一ヶ月というのに、屋敷中に毬の想い出が染み付いていて改めてどれほど彼女を想っていたか思い知った。
なにより、【華】をはじめ屋敷に居るモノたちまでもが火が消えたように淋しがっていて、その想いが余計に龍星の胸を締め付けた。
「分かった。
伺おう」
疲労や胸の内を全く滲ませない、いつもの冷静な龍星がそこに居た。
ただ、いつも絶対に帝の呼び出しに応じない龍星がしぶしぶとは言え立ち上がったのを見て、周りの者たちは何事かとざわついていた。
「龍星!
やっぱり、今日は来てくれたね」
御簾もかけずに帝が一人、部屋に居て無邪気に笑った。
「人払いしているから気にしなくていいよ。
まぁ、龍星がそんなこと気にするとも思えないけど」
「……なんでしょう」
龍星は表情を崩さず、真直ぐ帝を見る。
帝はくすくす笑った。
「相変わらず冷静だね!
そこがとても気に入っているんだけど。
あ、その目。疑ってるでしょ?本当だよ、龍星に憧れてるんだ。
だいぶ似てきたと想うんだけど、どう?」
「私には判断しかねます」
「そう?残念。
でもね、龍星。大事なものは手放しちゃ駄目って教わらなかった?」
帝の瞳が支配者の色を帯びる。
龍星は表情を変えない。
糸を張り詰めたような緊張感がそこに走る。
恭しくそう言われて、龍星は珍しく仕事の手を止めた。
毬を左大臣家に返した翌日。
夕べは淋しさのあまり眠つけない自分に苦笑した。
たった一ヶ月というのに、屋敷中に毬の想い出が染み付いていて改めてどれほど彼女を想っていたか思い知った。
なにより、【華】をはじめ屋敷に居るモノたちまでもが火が消えたように淋しがっていて、その想いが余計に龍星の胸を締め付けた。
「分かった。
伺おう」
疲労や胸の内を全く滲ませない、いつもの冷静な龍星がそこに居た。
ただ、いつも絶対に帝の呼び出しに応じない龍星がしぶしぶとは言え立ち上がったのを見て、周りの者たちは何事かとざわついていた。
「龍星!
やっぱり、今日は来てくれたね」
御簾もかけずに帝が一人、部屋に居て無邪気に笑った。
「人払いしているから気にしなくていいよ。
まぁ、龍星がそんなこと気にするとも思えないけど」
「……なんでしょう」
龍星は表情を崩さず、真直ぐ帝を見る。
帝はくすくす笑った。
「相変わらず冷静だね!
そこがとても気に入っているんだけど。
あ、その目。疑ってるでしょ?本当だよ、龍星に憧れてるんだ。
だいぶ似てきたと想うんだけど、どう?」
「私には判断しかねます」
「そう?残念。
でもね、龍星。大事なものは手放しちゃ駄目って教わらなかった?」
帝の瞳が支配者の色を帯びる。
龍星は表情を変えない。
糸を張り詰めたような緊張感がそこに走る。