蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】

三の二 告白

「馬の様子、見てくる」

雅之はその場にいることに耐えかねて、立ち上がる。

「雅之」

毬が呼び止める。

「ありがとう」

「どういたしまして。俺は何も出来なかったけど」

「そんなことないよ、絶対。
 今、ここに居てくれるんだもの」

毬は雅之に向けて、心からの笑顔を零した。

そして、また、感情を押し殺して龍星に視線を戻す。

「もう、平気。
 龍、放して」

泣き出しそうになるから、出来るだけ言葉を短く伝える。

それなのに龍星は唇を噛み締めたまま、抱きしめている手を放さない。

「お願い、龍っ」

毬は困った顔で訴えた。その瞳が徐々に潤んでくる。

「龍を困らせたくないの、ねぇ、お願いだからっ」

毬の瞳から涙が溢れる。

龍星は優しくその髪を撫でながら囁いた。

「困らせて」

「龍?」

思いがけない言葉に、毬は目を見張る。

「困らせてくれれば良いから」

「でもっ
 龍のおうちには居られないならっ」

「戻ってきて。毬が居ないと淋しくて眠れない」

毬にだけ聞こえるように、小さな声で龍星が囁く。

「本当?」

似つかわしくない発言に、毬は思わず問い返す。

龍星は真直ぐに彼女の瞳を覗き込むと
「本当」
と答えた。

毬は涙に濡れた顔で、ようやく、くすりと笑った。


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