蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
「龍星」

思考と後悔の海に溺れそうになった龍星を救ったのは、雅之の声だった。

龍星は呼吸と思考を整え呪を唱えた。

空気が揺れ、邪気は去り、徐々に毬の体温が戻ってくる。

どれくらいの時間そうしていただろう。
龍星の腕の中で、すっと毬が目を開けた。

弾かれたように目を見開くがその身体は抱き寄せられていて身動きできない。

「龍、あの、私……ごめ」

戸惑い、驚き謝ろうとする毬の唇に、そっと指を置いて黙らせると龍星は優しい声で囁いた。

「毬は悪くない。謝る必要はない」

彼女が苦しいといわないくらいの力で、龍星は彼女を抱きしめ続けている。
心に留めきれない感情が溢れて、龍星は冷静を保てない。

眉間に寄った皺に毬はそっと手を当てる。

「どうしたの?どっか、痛い?」

……本当にこの子は。人の心配しかしない。

龍星はゆっくり呼吸を整える。

「いいえ。毬は?どこか苦しくない?」

言われた毬は一瞬、痛みに耐えるようにぎゅっと瞳を閉じて、次に目を開けたときには感情を押し殺した表情に一変させた。


「平気。
 ちゃんと歩いておうちに帰れるから大丈夫。
 いつも、助けてもらってありがとう、龍」



毬は、唇の端を器用に押し上げ、目一杯の笑顔で他人行儀に言った。


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