蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
四 蛍が浮かぶ頃
それから、少し離れたところにいる龍星に視線を向ける。

「龍」

涙で濡れた、甘い声でその名を呼ぶ。
呼ばれた龍星はその瞳に切なさと優しさを宿して毬を見た。

「太一は、もう、淋しくないかな。
 家に戻れないって泣いてない?」

話している途中で耐え切れず涙が零れる。

「……って、だって。
 太一は人でなかったのかもしれないけど、確かに僕の手を掴んだ。
 本当にここに居たんだよ。
 それで、独りぼっちで泣いてたんだ。
 僕と、大人になっても友達でいるって、そう言ったんだ」

太一を思い出すと、自然言葉遣いも男の子になってしまう。
毬は自分の手を見た。確かに繋いだ、その手を。


夢幻でした、だから忘れて下さいね。

そんな言葉で騙されない。
そのくらい、現実的な存在感を持って、ここにいたのだ。


龍星はぎゅっと、彼女の手を掴む。
空を掴もうとしている、その小さな手を。

「本当に、ここに、いたんだ」

毬はかみ締めるように言った。
いつもより低い声で。


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