蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
太陽はゆっくり西に傾き、都は再び夜の闇へと落ちる準備を始める。

龍星は安心して眠りに落ちた毬を抱き抱え、雅之とともに馬舎を後にした。

すぅ、と、目の前を緑の小さな光が横切る。

「蛍の季節、か」

龍星は紅い唇で無意識に呟く。

「そうだな」

雅之の相槌より、先に聞いた帝の言葉が耳に浮かんだ。

……蛍を見た翌朝。
消えた――


夜闇の中、呼び出した牛車に乗り込み、腕の中で眠る毬を見つめた。

あどけない寝顔は、眺めているだけで心が和らぐ。


……左大臣邸に行ったんだ

帝の言葉が生々しく蘇る。


あの男なら、泣かれようが喚かれようが、躊躇わず毬を抱いただろう。その欲望のままに。


心臓の奥に、えもいわれぬ痛みが走る。

毬を左大臣邸に帰す気には、どうしてもなれなかった。
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