蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
龍星は、毬に女から目を放さないよう頼み、その隣で式神から事情を聞いた。

しかし、式神は急に光が走った後金縛りにあい記憶がないと言うばかりだ。気付いたら、血に塗(まみ)れた部屋の中で律(女の名だ)が短刀を握りしめ茫然としていたので、龍星の元に行くよう促したという。

毬と律には式神は見えない。毬は、さめざめと泣いている律という女を見ていた。
年の頃は三十歳過ぎくらいか。みすぼらしい家にしては悪くない着物を身につけている。ただ、もう随分古いもののようだった。

……昔は裕福だったということかしら。

毬は想像を巡らせる。

が、何より気になったのは、その顔が太一に似ていることだった。

「龍、ご主人が見たい」

龍星はため息をつく。何か見つけて走りださんばかりの犬のような瞳だ。

「駄目だ。顔は判別出来ないほど損傷している」

毬が言いたいことは想像がつく。
ほら、やはりがっかりしている。

「太一に似てなかった?」
諦めきれないのか、唇を尖らせる。

「た……太一っ」

青ざめた顔で律が呟く。その指先は震えていた。
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