蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】

四の三 幕の裏

「へえ、そんなに大事?」

太一が龍星を見てにやりと笑う。
龍星はすうと目を細め、深紅の唇で妖艶に微笑んだ。

「大抵のものは大事にする方針ですよ。全てのものを粗雑に扱うあなたとは違います」

氷のように冷たく鋭い声で龍星が答える。

「全てのものに、無関心なんだと思ってたよ。勘違いかあ。
陰陽師と言っても所詮、ただの人間なんだね」

クスクスと、太一が笑う。狐のような細い目で。

「太一っ、太一なの?」

律が縋るように壁の一点を見た。
にやりと、いやらしい笑いを浮かべ、霊のはずの太一がその姿を曝す。

「そうだよ、かあさん。かあさんがあの男を殺してくれたから、生き返れたんだ」


律の目には甦った息子に見えるのだろう。
涙を流してそいつを抱き締めている。


が、龍星の目には、それは人間を弄んで楽しんでいる妖狐(ようこ)にしか見えなかった。
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