蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
――その頃、邸内では。


印を結んだ龍星が呪を唱えていた。

妖狐は太一になりすまし、甘えた声を出す。

「かあさん、あいつ、僕を消そうとしている!」

「安部様、お止め下さいっ」

律は太一を庇い、鬼の形相で龍星を睨み付けた。

こういう時、正義の在り方がぐらりと揺らぐ。これではまるで自分が悪人だ。

龍星は仕方なく途中で呪を止める。

別に今更妖狐を滅しても、死んだ男が生き返るわけでもない。


それを見て、妖狐はクツクツと喉を鳴らして嗤った。

「それでこそ、我が兄弟」


龍星は唇を噛み締め、ただ立ち尽くすほかなかった。
< 57 / 95 >

この作品をシェア

pagetop