蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】

五の一 悪戯

「龍星っ」

雅之に呼ばれて、龍星は我に返った。
屋敷の中というのに辺り一面、白い霞がかかっている。

……幻霧(げんむ)か


巻き込まれた人に幻を見せ、その心を惑わせる白く濃い霧だ。


目の前にはもう妖狐の姿はなく、律が呆けて座りこんでいた。


「毬は?」

龍星は声がした方に目をやる。

「消えた。霧が立ちこめてきたから手を掴もうとしたんだが……」

雅之の辛そうな発言に、龍星は頭を抑えた。
失態だ。

あのキツネの罠にまんまとはまってしまったのだ。


龍星は瞳を閉じて、神経を集中させた。
何の迷いもなく、印を結び、呪を唱える。


龍星の気合いの入った声が響き、辺り一面はゆっくりと晴れ渡った。



「毬っ」

龍星は急いで屋敷から出ると、庭の隅に倒れている毬を見つけ抱き上げた。


真っ青な唇。
硬く閉じた瞼。


「やあ龍星。なんの騒ぎ?」

予想外の声に弾かれて顔をあげる。


「……帝」


驚きの声を上げたのは、雅之の方が早かった。
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