蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
「龍星、大丈夫か?」

事の顛末――妖狐が、息子に逢いたいと願う律を唆し、夫を殺害させたこと。それを霊の仕業だと思わせるよう、律を龍星の元に来させたこと――を語り終えた龍星を、雅之が心配そうに見る。

「ああ」

龍星は珍しく疲れた顔で頷いた。


ここは安倍邸。
いつも二人で酒を酌み交わす場所に腰をおろしていた。
酒はもちろんあるが、二人とも口をつける気にならない。

西の空が紅く染まっており、時折烏の姿が見える。


毬は部屋で眠っていた。
――正確には、龍星が解毒剤を飲ませて眠らせた――


毬に強引にしかも必要以上に深く唇づけたのは、彼女のため、なんかではない。自分の欲望のせいだ。
雅之が安部邸に来てなかったら、あのまま毬を抱いてしまったかもしれない。


……俺もあの男と大差ないな。


龍星は心の中で自嘲気味に呟いた。
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