蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
「俺は過信していたのかもな」

一人物思いに耽っている龍星に、雅之が言う。

「何をだ?」

龍星が問う。
雅之は照れたときの癖で頭を掻く。
そしていつもの実直な眼差しで龍星を見つめた。

「いや、なに。
お前のことを、だよ」

「俺を?」

「そうだ。
あまりに凄腕だから、いつの間にか無敵の陰陽師だと思い込んでいたようだ。

毬に諭されて、霞が出た時、お前の様子を見に行って本当に良かったよ。もっとも、消えた入り口が復活していたから行けたんだが」

羨ましいほど素直に心の内を語る雅之に、龍星は口元を綻ばせた。

「そうだな。
雅之が来てくれて本当に良かったよ」


妖狐の言葉に惑わされ、我を見失っている間に、妖狐は姿を消した。置き土産に幻霧を残して。


雅之が来てなかったら、龍星も霧に呑まれて幻に翻弄されてしまっただろう。

「今日はゆっくり休むといい」

雅之は言うと立ち上がった。

「もう帰るのか?」

夜はまだこれからなのに?

「ああ、お姫様によろしく」

雅之は酒に手をつけないほど疲労している龍星を気遣い、早々に安倍邸を後にした。
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