蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
「下心……って、まさかっ」

「あら、そんなに驚くことかしら?」

「だって。
龍は私のことが心配で何も手につかなくなるから、左大臣家に帰れって言ったのよ」

「あらあら。
それは恋の告白以外のなにものでもないと思うけど?」


……
………
…………!!



毬は、千にあっけらかんと言われて、動揺のあまり黙りこくってしまった。

遠くからざわざわと色めきたつ声がする。

「ほら、噂をすればなんとやらよ。このざわめきは龍星殿ね」

「え?帝じゃなくて?」

「あら、皆、帝には見馴れているもの。
遠原殿が来られる時も騒めくのだけれど、龍星殿は格別なのよ。
容姿端麗だし、あの冷たく落ち着いた表情は却って女心をくすぐるものよ」

ざわめきは波のように大きくなり、帝と龍星が入ってきた。

「姉妹二人盛り上がっているようだね」

帝の声に千が人払いして御簾をあげる。

「もちろんですわ」

……トクン、と、毬の心臓が高鳴る。

こんな公の場の龍星など見たことがない。


いつもより、一際冷めた表情でとても遠い人に思えた。

なのに。

龍星は毬を見た途端、とろけるような甘い笑みを浮かべたのだ。


毬は思わず耳まで朱に染める。
< 76 / 95 >

この作品をシェア

pagetop