蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
「あら、龍星がそんな表情出来るなんて知らなかったわ」

千が冷やかす。
龍星は得意の無表情で千を見る。

「そうでしたか?」

「妬けるな」

と、帝が真顔で口を挟む。

「どういう意味かしら?」

千が睨んで見せるが、すぐ吹き出した。

「でも帝、毬はまだ気付いてないのですよ」

「何に?」

「龍星殿の想いに、ですわ」

「お姉様!」

毬は慌てて千を制した。が、千は気にする様子なく話し続ける。

「龍星殿が毬のことに興味無いと信じているのですよ。
恋心に疎い子だとは存じておりましたが、まさかここまでとは」

毬は所在なさげに目を伏せる。

「では、私にもまだ機会があると思って良いのかな?」

毬がかぶりを降る前に

「僭越ながら、微塵もございません」

ときっぱり言ってのけたのは龍星だった。

「しかし、お前の気持ちは通じておらぬではないか」

帝がからかう。
龍星は涼しい眼差しで返す。

「それはこれから時間をたっぷりかけてゆっくり伝えて参りますので、ご心配には及びません」


「人払いしておいて良かったわ。龍星を好く多くの女房に毬が睨まれるところだったわ」


千は半ば本気で呟いた。
< 77 / 95 >

この作品をシェア

pagetop