蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】

六の二 追憶

「姫は本当に知らぬことばかりなのだな」

帝が真っ直ぐ毬の瞳を見つめて言う。
毬は驚いて瞳を伏せた。

一匹狼を思わせる瞳は、孤高の輝きを帯びていた。
細い顔、意志の強そうな濃い眉。

他からの反論を微塵も受け付けない凛とした声で問う。

「嵐山での日々、本当に覚えておらぬのか」
と。

毬はぎゅっと紅い唇を噛み締め、眉間に皺を寄せる。



存在自体が眩しく羨ましい。そんな兄がある日突然姿を消した。

母もそうだが、毬もまたその現実を受け止められずにいた。


自分の方が消えるべきではなかったか。
姫になりきれない、中途半端な存在。



このまま、消えてしまいたい。
と、
崖の上から飛び降りたところで、記憶は潰(つい)えていた。
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