蛍が浮かぶ頃 【砂糖菓子より甘い恋2】
「でも」

毬は口ごもる。

屋敷にあがった二人は、いつもの庭の傍の縁側へと腰を下ろしていた。

「どうかした?」

「雅之のこと、怒らせちゃった」

毬は拗ねた子供のように唇を尖らせる。
ふわりと、龍星は毬の髪を撫でた。

「雅之とは親友なんだろう?
少々の喧嘩、すぐ仲直り出来るのが親友ってものだよ」

「そうなの?」

「雅之に聞いて見るといい」

「もう来るの?」
と、毬が首を傾げたのと、

「雅之殿が来られました」
と、華がやってきたのはほぼ同時だった。

毬は反射的に龍星の背中に隠れてしまう。


「こんばんは」

果たして、雅之は龍星の予測通り、酒瓶を持っていた。

「やあ、雅之。
うちの姫は急に人見知りになったようだ」

龍星がしれっと言う。

「雅之、怒ってる?」

毬は怯えたウサギのように、ピョコンと目だけ出して問う。

雅之は人好きのする笑顔を浮かべた。

「いや。そんなに長いこと怒り続けるたちじゃない」
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