笑顔と猫とどんぶらこ~フーテンさきの歌紀行~
 旅のルール、その一。川で洗濯しない。
 
 いくら洗濯物が溜まっているとはいえ、この川で洗濯したら、旅は終わってしまうし、清らかな川を汚してはいけない。

「とっても綺麗な川ですね」
「うん。水がすごく透き通ってるね。この川は何川なのかな?」
「たぶん、信濃川の上流だと思います」
「信濃川なら、あたしも知ってるよ。日本で一番長い川だよね」
「はい。そのとおりです。信濃川の長さは、三百六十七キロなんですよ」
「そんなに長いんだ。ちょっと川に入ってみようか」
「はい。入りましょう」
 あたしとまなちゃんは、砂利の上で靴下と靴を脱いで素足になり、川の浅瀬に入って水遊びを始めた。

 ちゃぷちゃぷ。ちゃぷちゃぷ。ちゃぷちゃぷ。

 透き通った冷たい水が火照った足を冷やしてくれる。
 こんなに綺麗な川に入って遊ぶのは、あたしは二十年振りくらいだと思う。

「すごく気持ち良いね」
「はい。身も心も癒されます」
 あたしの隣で水遊びを楽しんでいるまなちゃんは、清々しい笑顔を浮かべている。

 水は命の源。川で水遊びをしているあたしもまなちゃんも、他の人間も魚も鳥も動物も昆虫も植物もプランクトンも、すべての生命は水によって生かさせている。
 いつも当たり前のように飲んでいる水。水道の蛇口を捻るだけで出てくる水。この清らかな水も誰かの体内に入って、体中を駆け巡るのかもしれない。

 水は大切に。
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