食わずぎらいのそのあとに。


「このまま母親のところに住んでればって聞こえた」

「え? だって結婚しようって」

「だから、先延ばしにしたいのかなと思って」

今度はこっちが驚く番だ。そんな誤解されるような言い方をした覚えはないけど。

「被害妄想じゃない?」

思わず言ったら「かもね」と髪をかきあげて嫌そうに言った。

「私が一緒に住みたくないんだと思って怒ったの?」

「怒ったっていうか、がっかりしたっていうか」

「タケルはどうなの? 結婚するなら一緒に住みたいって思ってるの?」

「なんだよそれ。普通そうするって」

普通? それも『責任とる』の一環? そもそも泊まらなくなったのそっちでしょ? 急に一緒に住むのが普通とかってなんなの、義務感?







息を吐いて、目を閉じる。もう、やめよう。

「もう、やめよう。普通そうするとか」

「やめるってなに」

「無理しなくていいよ」


お互いに気を遣いあって、無理してすぐケンカになって、こういうの、もういい。

「ほんとは結婚なんかしたくなかったって、ちゃんと言っていいよ。ちょっと距離置こうと思ってたんでしょ? あんまりベタベタ付き合うより仕事頑張りたいとか、思ってたんでしょ? 結婚考えてたとか、そういう嘘ついてまで優しくしてくれなくていいよ、もう」



「急に何言ってんの」

勢いよく話し出した私に気圧されたようにタケルが目を見開く。

「だから、結婚したくないっていうのは隠さなくていいって言ってるの!」

怒鳴るような声になった。タケルは言葉もなく、考えるように目線をしばらくさまよわせた。

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