食わずぎらいのそのあとに。
「待って、ちょっと考える」

と下を向くから、私もそれ以上何も言えず黙って待つ。

「俺が、急に結婚することになって嫌がってると思ってるってこと?」

「嫌だっていうか、心の準備がないっていうか」

「俺は結婚考えてた。子どもは正直びびった。こないだそれも言った。嘘じゃないよ。心の準備がないのは香だろ」

なんでそんな堂々としてるの? そんな話1度もしてないし、私だってまだそこまで考えてはなかったのに。まだ付き合って半年も経ってないよ?



「嘘じゃないって、信じられない」

信じたふりなんてやめようと覚悟して言った。腕を組んで、丸め込まれないよと意思表示をする。

でもそれを見て大げさにため息をついた後、余裕の笑みが返ってきた。

「俺がしたかったら、結婚するの?」

「……したくなくても、して欲しいけど。でも嘘つかなくていい。いつか、結婚して良かったってタケルが思えるように努力したいと思ってる」

「香が? 幸せにしてくれるんだ?」

「なんで笑うの」

「ごめん。やっぱり潔いよなと思って」と笑いながら、タケルがじっと私の目を覗き込む。「嘘じゃないよ。俺は本当に考えてた。俺で香が幸せになれるかなとか」

「ほんと?」

「正月に香の家行った時、親父さんに聞かれたよ。結婚はちゃんと考えてるのかって」

「うそ」

思わずまた座り直した。

「俺は結婚してる友達多いから考えてますけど、香さんはその気がなさそうなので様子見てますって言ってある。嘘だと思うなら聞いてみな」

偉そうに口の端をあげて微笑む。無駄にかっこよくてずるい。そんな話、お父さんもタケルもおくびにも出さなかった。


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