ビルに願いを。

最上階55階のラウンジでは、美しく装った男女がさざめくようにあちこちで静かに笑いあっていた。ランダムに配置されたソファやチェアに座っていたり、カウンターでグラスを傾けていたり、人それぞれに寛いだ雰囲気。

パーティってもっと賑やかな感じかと思ってた。



緊張して固くなってるのを自覚しつつも、丈や麻里子さんのいつもと変わらない様子にだんだん慣れて来る。

カクテルも作ってもらったけれど、こんなところでうっかり酔っ払わないように少しずつ飲んだ。



「投資顧問の誰だかと、あとなんだっけ?」

丈が気のない様子で聞くと、社長が言い聞かせるように重要人物の名前と居場所を教え始めた。

「麻里さんたちも、ちょっと付き合ってくれる? ある程度挨拶できれば今日の用事は終わるから」

「もちろんです。お邪魔になるようでしたら杏ちゃんと私は少し離れますので合図なさってください」

「男に声かけられたら困るから、そばにいた方がいいよ」

社長の笑顔に、麻里子さんは小さなしかめ面を返した。




麻里子さんに倣うようにして、社長と丈が何人かと話すのに付き添った。アッパーフロアだけでなく、外部の有名な企業の重役も来ていたりした。

意外なことに、丈はビジネスマンらしく爽やかに会話していた。スーツ姿であることも合わせて、別人みたいだ。

「こういうこともできるのね」

呆れるべきか感心するべきか決めかねている様子の麻里子さんと、顔を見合わせた。

知り合いのアメリカ人と再会した丈と社長が、今度は英語で何か盛り上がり始めている。私たちも紹介されはしたが、男3人で楽しそう。

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