ビルに願いを。

「それでも、幸せだったよ。最後に会えてよかった」

言うなと言われたことを言った。丈から返事はない。

きっと、怒った。でも。本当に、絶対に幸せだったと思う。

「待ってる時も幸せだったよ。寂しかったけど、いつも帰ってきてくれるってちゃんとわかってた。遠い街の話をいつもたくさんしてくれて、自分も行ったみたいな気がして嬉しかった」

本当だよ。知ってたから、いつも思い出してくれてるって。

「忘れてないって、ちゃんと知ってた。今もどこかで頑張ってるんだろうなぁって、怒ったり笑ったりしてるんだろうなぁって、ちゃんとわかってた」

ケイティの気持ちが私にはわかる。

伊達に似てるわけじゃない。

いつもどこかに行っちゃう優しい人のことを、寂しく楽しく待ってたの。自分にはとてもできないすごいことをやってる人の家族であることを、誇りに思ってた。

だから泣かないで。自分を責めないで。

「ちゃんと幸せだったから。大好きだから、泣かないで。出会えて本当に幸せだったから」


泣かないでと言いながら、自分が泣いていた。私の中のケイティが泣いていた。

お別れが悲しくて。でも、思ってくれたことが本当に幸せで。


丈はずっと何も言わなかった。でもきっと泣いていた。私も泣いてて、よくわからなかったけど。

ケイティのために、丈のために、それからきっと自分のために、電話を切ってからも、私はその場にしゃがみこんで1人で泣いた。


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