ビルに願いを。
社長が帰国した翌朝、久しぶりに社長室に呼ばれた。入って行くと、麻里子さんはいない。社長だけが疲れた様子でソファに座っていた。
「杏ちゃん、もしかして丈と話した?」
「はい、電話で。私が一方的に話しただけで、的外れだったかもしれないんですけど」
「やっぱりそうか。あいつ、向こうでコーディングしてる。部屋にこもって仕事してるって」
「そうなんですか」
「1ヶ月は無理だろうと思ってたんだ。あいつはケイティのために大学を辞めて戻って来ちゃうくらい溺愛してた。それこそ仕事に支障が出るくらいに」
ため息まじりに社長はソファに沈み込む。今日はなんだか、お兄ちゃんの顔。
「君のどこがケイティに似てるのか、正直俺には全然わからないんだけどね。だいたいケイティだってかわいいけれど、俺にとってはただの犬だし」
不謹慎にも笑ってしまった。麻里子さんに似てる。
「すいません。麻里子さんもそんなことを言っていたので。今日は麻里子さんは?」
「君と丈の話に首を突っ込むのをやめたいんだって。俺ね、あの人を何ヶ月も口説いてるんだよね」
え、そうなの。でもわかる気がする。
「ぐらついてるみたいなんだ。身分違いとか変なことばっかり言ってるからね。だから、君はその調子で頼むね」
「はい」
答えながらも何を頼まれたのかよくわからないままで、社長室を後にした。
結局なんだったの、今の話は? 丈が仕事に戻って嬉しいし、麻里子さんともうまくいくかもと言う報告?