勿忘草~僕は君を忘れてしまった。それでも君は僕を愛してくれた~。
僕の一日はゆっくりと流れているようで早く、淡々としているようで濃厚だ。
僕は毎朝7時に起き、着替えをして顔を洗いトイレへと行く。それが僕の一日のはじまりであり、一日をはじめる準備運動でもある。
きっとこの生活リズムは僕が記憶を失う前から続けているものだ。
退院し、我が家に帰った次の日から僕はこの生活リズムで動いている。
何も考えずに体が動く。
僕の頭の中の日々の生活リズムの記憶は失われたけれど、僕の体に染み付いた日々の生活リズムの記憶は失われることなくその動きを覚えていたわけだ。
嗚呼、なんて素晴らしいのだろう。
そんなことを心の中で思っているとコトリと目の前に淹れたてのブラックのホットコーヒーが差し出された。
「どうぞ?」
やんわりと微笑んだ彩さんは実際の年齢よりも若く・・・と言うよりは幼く見える。
彩さんの年齢は28歳。そう僕は彩さんから聞いた。まあ、彩さん本人が嘘を吐いていたなら仕方のないことなのだけれど、僕はその年齢を聞いた時、真顔で『本当に28歳なの?』と聞き返してしまった。そのくらい彩さんの見た目は可愛らしい。
「ありがとう。いただきます」
僕はそう言って熱々のブラックのホットコーヒーを口に含み、飲み込んだ。
美味しい・・・。
僕はブラックのホットコーヒーが好きだ。
それは恐らく、記憶を失う前から。なんとなくそう思う。そして、彩さんの淹れてくれるブラックのホットコーヒーはどこの喫茶店のものよりも美味しいと僕は思う。
「今日も美味しいです」
僕は笑顔でそう言って嬉しそうにニコニコしている彩さんを見つめた。
幸せだと感じる一時だ。
幸せは小さくていい。
不意にそんなことを思った。この穏やかで何でもない毎日が続けばいい。この頃、本当にそう思う。だから僕は彩さんに僕の本当の思いを伝えられずにいる。この穏やかで何でもない毎日を壊したくないから。彩さんを失いたくないから・・・。
「・・・要さん?どうかされました?どこか痛みます?」
「え?あ・・・何でもないです。ちょっと考えこどしてただけ。大丈夫だよ。・・・ありがとう」
そう言って出てきた笑みは自分でもはっきりとわかるほど苦いものだった。
その笑みを見て訝しげにしている彩さんがまた可愛らしく、おかしい。
僕はもう一度『大丈夫』と言って少しぬるくなったブラックのホットコーヒーを一気に飲み干した。
僕は毎朝7時に起き、着替えをして顔を洗いトイレへと行く。それが僕の一日のはじまりであり、一日をはじめる準備運動でもある。
きっとこの生活リズムは僕が記憶を失う前から続けているものだ。
退院し、我が家に帰った次の日から僕はこの生活リズムで動いている。
何も考えずに体が動く。
僕の頭の中の日々の生活リズムの記憶は失われたけれど、僕の体に染み付いた日々の生活リズムの記憶は失われることなくその動きを覚えていたわけだ。
嗚呼、なんて素晴らしいのだろう。
そんなことを心の中で思っているとコトリと目の前に淹れたてのブラックのホットコーヒーが差し出された。
「どうぞ?」
やんわりと微笑んだ彩さんは実際の年齢よりも若く・・・と言うよりは幼く見える。
彩さんの年齢は28歳。そう僕は彩さんから聞いた。まあ、彩さん本人が嘘を吐いていたなら仕方のないことなのだけれど、僕はその年齢を聞いた時、真顔で『本当に28歳なの?』と聞き返してしまった。そのくらい彩さんの見た目は可愛らしい。
「ありがとう。いただきます」
僕はそう言って熱々のブラックのホットコーヒーを口に含み、飲み込んだ。
美味しい・・・。
僕はブラックのホットコーヒーが好きだ。
それは恐らく、記憶を失う前から。なんとなくそう思う。そして、彩さんの淹れてくれるブラックのホットコーヒーはどこの喫茶店のものよりも美味しいと僕は思う。
「今日も美味しいです」
僕は笑顔でそう言って嬉しそうにニコニコしている彩さんを見つめた。
幸せだと感じる一時だ。
幸せは小さくていい。
不意にそんなことを思った。この穏やかで何でもない毎日が続けばいい。この頃、本当にそう思う。だから僕は彩さんに僕の本当の思いを伝えられずにいる。この穏やかで何でもない毎日を壊したくないから。彩さんを失いたくないから・・・。
「・・・要さん?どうかされました?どこか痛みます?」
「え?あ・・・何でもないです。ちょっと考えこどしてただけ。大丈夫だよ。・・・ありがとう」
そう言って出てきた笑みは自分でもはっきりとわかるほど苦いものだった。
その笑みを見て訝しげにしている彩さんがまた可愛らしく、おかしい。
僕はもう一度『大丈夫』と言って少しぬるくなったブラックのホットコーヒーを一気に飲み干した。