勿忘草~僕は君を忘れてしまった。それでも君は僕を愛してくれた~。

記憶を失って不便なことは本当に多い。
特に僕が記憶を失って苦痛だったことは街中でバッタリ出会った知り合いの顔と名前がわからないことだ。
向こうは僕のことを知っているのに僕はその人たちのことを知らない。正確には覚えていない。
その度に僕はその人たちに記憶を失ってしまったことを説明しなければならない。そして、その説明を僕から受けた人たちはほんの一瞬だけ気の毒そうな目を僕に向け、そして次の瞬間には好奇な目で僕を見つめ見る・・・。
その度に僕は嫌な思いをし、動物園に連れ込まれた絶滅危惧種の動物にでもなったかのような重たい気分に浸ることとなる。
けれど、そのあとすぐにやってくる『その人の存在を忘れてしまった』と言う罪悪感には遥かに劣る。
人の存在を忘れる・・・。
それは罪なことなんだと僕は思う。
そして、そう思う度に僕は僕に本当に大切な人がいなくよかったと痛感させられる。
もちろん、父さんや母さんのことは大切だ。
血をわけた家族だ。大切で当たり前だ。
僕が言う『本当に大切な人』と言うのは血をわけていない人のこと。新しく家族となりうる人のことだ。
そんな人が僕にいなくてよかった。
そんな大切な人のことを僕は忘れたくない。そう、絶対に・・・。
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