ESCAPE
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居酒屋、つぼ八は、渋谷センター街にも並ぶ大手チェーンだが、清田区の住宅街。札幌市内で唯一地下鉄の通らない、市営バスで駅から20分の地にも紛れも無く存在している。

合コンに興じる若者やサイゼリヤの女子高生を観察するのはそこそこに面白いのだけれど、
再会した親子がえだまめなんぞをしんみりと食べて談笑する光景を眺めていても正直つまらない。

あいにくここには、イケメンの店員もいないし、酒臭い女子高生のバカ店員がキモチの悪い笑みを浮かべながら、さっきからアタシの前を行ったり来たりしてはオーダーに奔走している。アタシの机の上には、なんこつからあげと、なすの浅漬け、そしてナマチューが等間隔で並べられてある。ビールばかり、既に4杯目に突入していたアタシは、自分が出す息の匂いに耐え切れなくなり、時折フリスクを挟んでごまかしながら、遠い眼をして、テーブル一つ挟んだメタボ一家を眺めていた。

「オマエも親孝行するようになったかあ」
そう言って眼を細める、着物姿のオッサン。
「ちゃんと、食べてるんでしょうね?」
厚化粧をした、過保護君の母親。
「こんなところで、ごめんね。ささ、好きなだけ飲んでよ」
そんな風に漏らすジャージにトレーナー姿のメタボ。

そんな光景に思わず虫唾が走る。メタボが時折何か言うたびに、母親はパッと目を輝かせ笑顔になる。父親は、目を細めて、マグロの刺身なんぞをチビチビ口に入れている。
退屈なアタシは彼らの頭の斜め上あたりに噴出しをつけていた。

「パパがね。ヴィトン買ってくれないのよ」
「マミー、ヴィトンなんてボクが株で儲けて買ってあげるだろ」
「しょうがないだろ。愛人代もバカにならないからな。ガハハ」
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