俺様副社長のとろ甘な業務命令
ドアの向こうは、しんと静寂に包まれていた。
でも、キチンと脱ぎ揃えてある革靴と、奥に見える部屋の明かりが、副社長がここにいることを確認させる。
そっとパンプスを脱ぎ、リビングダイニングの扉に向かっていく。
様々な感情が入り混じり、鼓動の高鳴りが増していくのを感じながら、ドアを数回ノックした。
「失礼、します……」
中からの返事はなかったけど、静かにドアを開いてみる。
夜景が広がるガラス窓の前、まだスーツのままの後ろ姿が佇んでいた。
振り返った副社長は、私が来ることを予想できていたかのように驚いた表情一つ見せない。
その様子に逆に私の方が面食らってしまい、入ったドアの先で立ち止まってしまった。
「あ……急に来て、すみません」
「来ると思ってた」
「そうですか……あの、最後だったのに、私、副社長が帰ったのも気付かなくて」
「今日も酔い潰れてたな」
「今日は違います! ちょっとうとうとしちゃったみたいで……」
「一緒だろ、それ。気を付けないと、ほんとにお持ち帰りされるぞ」
いつもの、からかうような口調と意地悪な表情。
もうこんな風に言われるのも最後かと思うと、それが今は名残惜しくも感じてくる。
「大丈夫ですよ……副社長みたいな物好きな人、滅多にいませんから」
負けじと私の方も憎まれ口で返すと、副社長は目を伏せフッと笑った。