俺様副社長のとろ甘な業務命令
突如披露された副社長の趣味は、どれも文句のつけどころがなく完璧だった。
この出来は日常的にキッチンに立っている証拠といえる。
家政婦さんがいるような家で育ったのだから、食事は勝手に出てくるような環境だったに違いない。
包丁もフライパンも持ったことがないし、お米の炊き方だって知らない。
きっと御曹司なんてそういうもんだと思っていた。
ここまで料理ができるなんて、そのイメージを覆された感じだった。
「副社長、お店できるんじゃないですか?」
「何だそれ」
「え、最上級の褒め言葉なんですけど」
こうして向き合って食事をしたのは考えたら初めてで、つい食べる副社長の姿に見入ってしまう。
美しく上品な食べ姿が育ちの良さを物語っていて、つい自分の箸の持ち方を確認してしまっていた。
昔から両親に箸の持ち方がおかしいとよく言われていた私とは大違いだ。
「食べたら出掛けるぞ」
「え、はい。でも、どこへですか?」
「どこって、仕事だろ。どうしても今日行きたいところがある」
「今日行きたいところ……ですか」
「どこかは、行ってからのお楽しみだ」
お楽しみなんて言っているのとは裏腹に、口調は淡々としていて特に楽しそうではない。
休日の今日、行かなくてはいけない外出の用なんて予定にはないはずだけど……。
せめてもと片付けだけは任せてもらい、早々に副社長の部屋を後にした。