俺様副社長のとろ甘な業務命令
行き先を知らされないまま、車は一般道から首都高に乗った。
湾岸線を走る車内からは、羽田空港から飛び立つ旅客機が見える。
チラリと運転席を見ると、少し開いている窓から入る風が、副社長の綺麗なゆるふわの黒髪を揺らしていた。
休日の今日も、副社長は相変わらずスーツ姿が決まっている。
一体何着持っているのかと思うくらい毎日違う装いだけど、今日は落ち着いた光沢のあるブラックのスーツを着ている。
今週あった業務の内容をポツリポツリと話し、会話が途切れると窓からの景色をぼんやりと眺める。
その繰り返しをしながら、ふと今朝、今日こそは聞き出そうと思っていたことを思い出した。
「あの……前に約束したことなんですけど」
「……?」
「呼び出しに応じたら……教えてもらえるって言っていましたよね、あの日のこと」
そのこと自体、話題に出すのは本当のところ気がひける。
出来ることなら犬に噛まれたと思って忘れたいのが山々だけど、内容が内容だけにやっぱりはっきりさせないといけないと思う。
「あぁ、まだ気にしてたのか」
「ま、まだって! 何言ってんですか!」
思わず声がでかくなってしまった。
私にとっては忘れもしない重大な問題。
そんな、昨日の夕飯何食べたっけ?みたいな、気軽に忘れられる内容じゃない。
でも、あまりにあっけらかんとした反応が返ってきて、あぁ、そういうことか、と、どこか納得もしてしまった。
副社長にとっては、数ある“そういう夜”の一つの出来事かもしれない。