桜ノ蕾

約束事


私がここに来て1ヶ月がたった。
桜の花は散って木々は新緑で青々としている。


すっかりここの生活にも慣れ、初めは四苦八苦していた着物も自分で着れるようになった。


「これも慣れたなー」


洗濯物を水に浸けながらしみじみと呟いた。

初めは洗濯板なんて見たことなかったからビックリしたなぁ。


「蕾様。何だかご老人みたいな言い方になっていますよ」


隣でクスクスと小夜ちゃんが笑った。


「えぇー、ほんとに? 私まだ十七歳なんどけどな」
「そうなんですか? 私と同じなんですね」




なんて話しながら10分ほどで洗濯物を片付けた。


「終わったー」


うーんと背伸びをする。
背筋がほんのり痛むけど心地いい痛みだ。


「蕾様は今日はこれで終わりなんですよね?」

「うん。そうだよ」


最近は小夜ちゃんの手伝いの他にも仕事をするようになった。
だけど今日はそれもなくこの洗濯で終わり。


「この後は?」

「そうだなぁ……」


午後が空くのは久しぶりだ。
と、いっても何か趣味とかがあるわけでもないしなぁ。


「あ、あそこ行こうかな」


裏にある林。
あれ以来忙しくて行くことがなかった。

あの景色を思い出すと行きたいという気持ちが膨らんだ。


「何処か行かれるところが?」

「うん、ちょっと行きたい所があるの」

「私はまだ仕事が残っていて着いていけませんがお気をつけて」

「ありがとう」

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