桜ノ蕾
「っっっ」
彼の顔は切なそうに歪められていた。
まるで今にも泣き出しそうな表情だ。
殿は目をぎゅっと閉じ、林の方へ立ち去っていった。
「ま、待ってっ」
震える声で殿を止めようとする。
だけど彼はそれに振り向くことなく林の中へ姿を消した。
伸ばした手が空をさ迷う。
百合さんと一緒にいていいなんて思うはずない。
あいつのことを何とも思ってないなんて真っ赤な嘘。
ボロボロと涙が溢れ出る。
足の力が抜けて私はその場にへたり込んだ。
「ううっ、ひっく…」
胸がキリキリと痛む。
まるで体が引き裂かれそうだ。
百合さんのころになんて行かないで。
私以外の人とあそこで会ったりしないで。
自分でも戸惑うような独占欲が頭を埋め尽くしていく。
それでもこの思いは届いてほしい人には届かない。
私は誰もいない林の前で泣き続けた。