空色(全242話)

《ピピピピピ》

ベッドの傍に置かれたアラームが、終わりを告げる。
十和の買った時間の終わりを……

『じゃあまたね? バイバイ』

笑顔を見せ、私の頭を撫でる。
温かくて大きな手に、思わず抵抗を忘れてしまった。

『……ばいばい』

何だろう、この気持ちは。

名残惜しい?
いや違う。
悲しいでも寂しいでもない気持ち。

でも嬉しいわけじゃない。

モヤモヤと晴れない心。
中々、晴れ間を見せない梅雨の空みたいだ。

髪が湿気を帯びて、肌に触る。
どうにも気分が悪い。

私はそれほどまでに、この人が嫌いなのか?

それとも……





『お疲れ様です』

十和の背中を見送った後だった。
黒服を身にまとった若い男が扉を開けたのは。

『ノックくらいしてください』

ベビードールに透けた肌を隠すように、上着の前側をクロスさせる。

それを見て少し不気味に笑った後、男はコホンと咳ばらいをして本題に入った。

『アユさん、もう上がっていいという事なんで。 俺が送っていきますね』

あまり見ない顔だ。
何て名前だったかな。

『新人さん?』

『はい。 3日前から』

外見は今時の男の子。
歳は私とそう変わらない位だろうか。

前のドライバーは真吾くんだった。
恐らく、彼の代わりに入ったんだろう。

『アユさん、めっちゃ綺麗ですね。 この仕事してるって事は彼氏いないんですよね?』

何それ。
そんなに目を輝かせて馬鹿みたい。

あんたは所詮、真吾くんの代わり。

『残念だけど、ここは恋愛禁止よ』

裏切ったらゴミのように捨てられるだけ。

『そうなんすかぁ。 でも皆、秘密で恋愛してそうですよね』

貴方も私も、彼と同じように、捨て駒なのよ……

< 30 / 243 >

この作品をシェア

pagetop