空色(全242話)
頬に当たる風は冷たく、空はくすんだ水色。
想像していたのは鮮やかなスカイブルー。
それは所詮、小説や漫画の中だけか。
『ちょっと美化しすぎてたかな』
頭の中でそう思ったつもりだったが、どうやら口に出していたらしく、十和は苦笑いを見せた。
『天気予報で「曇り、所により雨」って言ってたからね』
どうして、それを昨日言わないんだ。
だったら晴れの日に変えたのに。
『とりあえず移動しよっか』
不服に思っている私の頭をポンポンと押すと、十和は駅の構内へと入っていく。
『ちょ、移動って』
曇りなら何処に行っても同じなんじゃ……
『先回りすんだよ。 このぶ厚い雲よりさ』
十和の指差した先。
それはネズミ色にくすんだ空。
雲より先に……?
『そんな事が本当に出来るの?』
恐る恐る問うと、十和は満面の笑みを見せて手を差しのべた。
『約束したろ? 青空を見せるって』
大きく、ハッキリと筋の入った男の人の手。
力強く出されたその手を、私は意志に反し握ってしまった。
『行こう、アユ』
何故だろう。
ゴツくて汚くて脂っこい。
男なんてそんなもんだと思ってた。
こんなふうに触れるなんて考えてもいなかった。
でも十和の手は暖かくて、
とても安心できた。
『そういえば私を捨てたパパもこんな手だった気がするわ』
きっとそうだ。
それ以外に理由なんて無い。
『それ微妙だよ。 喜んでいいのか、落ち込んでいいのか』
『ふふ、そうかもね』
そういう事にしておこう。
きっとそれが一番、楽な気がする。
『でも大好きだったよ? パパの大きな手』
私がそう言って笑うと、十和も笑った。
少し照れ臭そうに……