恋人は魔王様
「まぁ、最近の若い人は大胆ね♪」

お姫様抱っこをされたまま、ソファに座っているキョウの上にいる私を見て、ダイニングからコーヒーを淹れてきたママは、好意的な笑顔を浮かべた。



出来たらそこは、嫌がってくれません?


でも、まぁ、舞台観賞やドラマ観賞や映画鑑賞が大好きで、いつでもヒロインになりたがる夢見がちなママにそれは無理な注文だ。



私はため息を飲み込んで、ちょっと何かを諦めた。

「キョウ、恥ずかしいからおろして?」

そう。私は仕方がないから『照れ屋』のキャラを認めることにしたのだ。
キョウは黙っておろしてくれる。私は急いでソファに座りなおした。

「お名前とお仕事をお聞きしてもよろしくて?」

マイセンのコーヒーカップを手に、ママはにこやかに口を開く。



私はぞっとした。

駄目駄目、それは聞いちゃ駄目。

思わず首をすくめていたのに、キョウは優雅にコーヒーを一口飲んでから、こともあろうに微笑んだ。

「京極 右京(きょうごく うきょう)と申します。
 仕事は、そうですね。
 今は、父の事業の見習いをしているところです」

適当にどっかから取ってきた名前にしては「京」が二つもかぶっていて雑なんですけど……

猜疑心の塊の私としては、それがキョウの本名だとは思えなかった。




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