恋人は魔王様
「魔王様、仕事が立て込んでどうしても抜けられなくて。
 でも、ユリア様を一人で放っておくのが心配だからと僕を遣わされたんです」

「心配、ねぇ」

こんな男を遣わせても同じくらい心配だとは思わないのかしら?

それにしても、執事は昨日と雰囲気がまるで違う。
そのことを指摘すると

「オンとオフは切り替える主義なんだ☆」

と得意気に胸を張っていたが、そういう分類でいくと、私の傍にいるのは確実に「オン」の方に入るのではないだろうか……。

「じゃあ、ユリア様じゃなくってユリアさんとか呼んでくれればいいのに」

「そこは駄目ですよ。
 ちゃんとけじめをつけないと、魔王様に殺されます」

その怯え方が尋常ではなくて、ああ、本当にアイツは簡単に何でも殺せちゃうんだろうなと、私は納得してしまう。

「その、【魔王様】なんだけど、まさか、昨日人を一人殺したりしてないわよね?
 うちの学校で」

「まさか。
 どうせ簡単に死んでしまう人間を、どうして魔王様自らがわざわざ昨日?」

その言い方がどうも引っかかったが、この際スルーさせてもらう。

「わかんないし、キョウのせいじゃないと思うんだけど。
 でも、昨日キョウが来た頃、転落して人が一人死んでるの。
 関連性なんてないんだろうけど、気になるわ」

強引にフォローの言葉を含ませながら、疑問点を口にする。

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