横顔
「おはようございます」

昨日は遅くまで残業だったというのに、まるで何もなかったかのように由井さんは椅子に座っていた。

新人は交代で、朝礼の準備で早くに出勤するのがうちの会社のルールだ。

今日は由井さんの当番らしいが、朝7時だというのに眠そうな素振りは全くなく、丁寧に書類を仕分けている。

『昨日はお疲れ様。昨日は何であんなに遅くなったの?』

「昨日はたまたまあの時間に駅に居ただけですよ。仕事じゃないです。先輩こそ、遅かったですね」

『オレはいつもあの時間だよ』

どうやら残業というのは勘違いだったようだが、昨日偶然にも会えたおかげで、今日はふた言話が出来た。

新人の中でも特に由井さんは、引っ込み思案で、こちらから話しかけないと、なかなか話す機会がない。

今度コミュニケーションというものを教えてあげようか。



何もかも無関心だったオレに、どこか気にかけるような存在だったのが、この由井さんだった。

どこにでもいる、ごく普通のOLで、引っ込み思案で控えめで目立たない。

そういえば、昨日の夜、呼び止められたのは、オレの方だった。

もう少し、気の利いた会話の方がよかったかな…

無関心を装う虚偽。

オレはしばらくこの葛藤と闘わねばならなかった。
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