もう一度だけでも逢えるなら
 今日は、夢は見なかった。見たとしても覚えていない。

 七時十八分に起床。

 大あくびを連発。

 マヨネーズトーストを三枚食し、コップ一杯の牛乳を飲み干す。

 いつもの時間に家を出る。

 アパートの階段を下りたところで、メガネを掛け忘れていたことに気づく。

 メガネを取りに家に戻る。

 いつもの道を歩いて駅に向かう。

 七時五十七分の電車に乗る。

 八時五十五分、会社に到着。

 エレベーターで八階に上がり、経理部のオフィスへ。

 朝の朝礼が終わった後、部長に嫌味を言われる。

 淡々と業務をこなして、定時に退社。

 十八時十二分の電車に乗る。

 また思わぬところで水樹さんを発見。

 優先席付近にいる。つり革には掴まっていない。

 水樹さんと私の距離は、五メートルくらい。

 その間に、何人かの乗客がいる。

 私には、気づいていない様子。

 本当にあの服が好きなのか、またモスグリーンのジャケットを着ている。下はネイビーのジーンズ。いつもの服装。

 水樹さんは、優先席に座っている若者に対して、何かを言っている。電車の音で聞き取れない。

 その瞬間、優先席に座っていた若者は立ち上がり、ドア付近に立った。

 その若者は、恥ずかしそうにスマホを操っている。

 七十五歳くらいに見えるおじいさんが優先席に座った。

 水樹さんは、私と同じ駅で下車。

 混んでいるエスカレーターには乗らず、階段を一段飛ばしで上がる。

 ゲートのない改札を潜っていった。

 ICカードはかざしていなかった。切符も入れていなかった。

 まさか、無賃乗車?

 本当に何をしている人なのか、すごく気になる。あの若者に何を言っていたのかも、すごく気になる。

 私は、水樹さんの後をつけることにした。見つからないように、こっそりと。
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