もう一度だけでも逢えるなら
 は! あれは……

 地面にお札が落ちている。

 拾ってみたら、一万円札だった。

 確かに、一万円札。福澤諭吉さん。

 メガネを外して確認。メガネを掛けて再確認。

 ちゃんと透かしが入っているし、古びたお札なので、偽札ではない模様。

 私が今までに拾った最高額は、たった百円。一万円はその百倍。突然の出来事に、ちょっと手が震えている。

 誰がいつ落としたのか。落とし主らしき人は見当たらない。



 選択肢は、三つ。

 遅刻覚悟で交番に行く。

 会社帰りに交番に寄る。

 自分のお財布に仕舞っちゃう。

 善の自分と悪の自分。



 交番は、駅の反対側にある。

 ダッシュで行っても、五分はロスしてしまう。

 お巡りさんからいろいろ聞かれて、さらに時間をロス。

 交番に寄ったら、間違いなく遅刻。

 何かと口うるさい上司に説教されて、また嫌味を言われる。

 紗優は相変わらずね。同僚からも嫌味を言われてしまう。

 まあ、それはいつものこと。

 帰りに交番に寄るのも面倒臭い。

 もらっちゃえ! もらっちゃえ! その一万円があれば! プチ旅行に行けるぞ!

 悪の自分の声がヒソヒソと。

 善の自分の声は聞こえない。
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