もう一度だけでも逢えるなら
「食べ終わりましたね」

「はい」

「それでは、そろそろ行きましょうか」

「はい。よろしくお願いします」

 お会計をして、ファミレスから出た。

 さっそく歩きスマホをしている人を発見。大学生風の若いお兄さん。ちょっと柄が悪そう。

「では、あの人に、歩きスマホをやめるようにお願いしてみます」
 水樹はそう言うと、歩きスマホをしているお兄さんの元に駆け寄っていった。

 私は水樹の後を追いかけた。

「歩きスマホは危険ですので、どうかやめてください」
 優しい声でお願いしている。私を注意してくれた時のように。

 歩きスマホをしているお兄さんは、そのまま歩きスマホをしながら歩いていった。

「失敗ですね」

「はい。失敗しました」

 いきなりの失敗に、水樹は苦笑いを浮かべている。



 それにしても、大変なお仕事だと思う。

 私は怖くて注意できない。下手に注意したら、逆ギレされて、暴力を振るわれる危険性がある。だから、みんな見て見ぬふりをする。それが、今の世の中。

 そもそも、注意しようなんて思わない。なぜなら、私も歩きスマホをすることがあるから。

 歩きスマホをしていて、人とぶつかったことがある。自転車と接触したこともある。車に轢かれそうになったこともある。

 一歩間違えば、危険な行為。歩きスマホは絶対にしない。私は心に固く誓った。

「水樹は勇気がありますね」

「いやいや、歩きスマホをしている人を注意するようになったのは、天使になってからですよ。それまでは、僕も見て見ぬふりをしていました」

 謙虚で正直なところがまたいい。

 そこが、水樹の魅力の一つ。

「さっきの人も、僕の姿が見えないんです。なので、堂々と注意できるんです」

 私は、なるほどー。と思った。

 姿が見えないから、堂々と注意できる。

 誰が注意したのかわからないので、あとでいざこざになることもない。
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