ピエリスの旋律
「これ、誰がしたの?」
かなり大きな声が教室に響いて、それとともに黒板前の壇上に尾瀬くんが上がる。
貼り出された写真を荒っぽく外す彼は、こちらに背を向けているのでどんな表情をしているかは確認できない。
黒板の近くにいた生徒達が一斉に口を噤んだのが見える。
だけど、廊下にいる生徒達はその様子をも面白がって、思い思いに話し続けた。誰にも遠慮することを知らずに。
「これ、誰がしたのか見た人いないの?」
先ほどよりも更に大きな声、怒声といってもおかしくはないようなそれが、辺りの温度をいくらか奪い取っていった。
そしてゆっくりと、尾瀬くんがこちらに振り向く。
その表情に、生徒達が一切の言葉を発することをやめた。
しんと静まり返った教室に、彼はにこりともせずに怒りを携えた目で立っていた。
「コソコソこんなことして、何の意味があるの?大事な時期に問題起こせばどうなるかって、分からない馬鹿だからこんなフザけたこと出来るの?」
殺気すら感じるその黒い瞳に、私でさえ背筋がひやっとした。
隠し切れない怒りが尾瀬くんを纏っていて、誰も何も言えない。
端正な顔を崩すことなく低い声を出すこんな尾瀬くんを、私は今までに見たことがない。
誰がこんなことって、混乱を続ける脳内で必死に考えようとしたけど、答えは意外にもあっさりと出た。
いつもにこにこしている尾瀬くんがこんなにも怒りに満ちているのを、生徒達は口を噤んだように見ていて、もちろん誰一人としてその場から動き出せない。
なのに、視界の端で誰かが動く気配がして、そちらに目をやるといつしかの女の子が立ちすくむ私を面白がって笑っていた。