ピエリスの旋律

「おーい!何してる、なんだこの人だかりは!早く戻れ!」


突然聞こえてきたそんな大きな声に、その場にいた生徒達が息を吹き返したように動き出した。
この声は、私達の担任だ。
静まり返っていた教室内をいそいそと移動する人々、廊下にいた大勢も次々に散っていく。

その時には、宮永さんの姿はもうなかった。

壇上にいた尾瀬くんは急いで黒板消しを握って、書かれた文字を消しにかかる。
彼がそうしてくれているのにも関わらず、私は未だ動き出せないまま立ちすくんでいて、姿を現した担任がその黒板の文字をバッチリ見てしまった様子でさえ、その場から眺めていた。




被害者とはいえ、お酒を飲んだとかライブをしたとか色々書かれてしまっていたので、私はそのまま生徒指導の先生に呼び出された。


確かにあのライブハウスでお酒は提供されていたけど、もちろん一滴も飲んでないし、私の今までの生活態度も悪くなかったのであっさり信じてくれた。
芸能活動は校則で禁止されている訳ではないし、遅くまでそういうところにいるのはやめなさいって言われるだけで済んだ。

誰か書いた人の心当たりは?とも聞かれたけど、証拠もないので分からないって答えた。
彼女以外に考えられないんだけど、きっと彼女なんだろうけど。
証拠は何もないから。


そのあとの授業を受ける気になんてなれず、私は高校に入って初めて早退というものをした。

昼前に学校を出るのは新鮮な気持ちで、空いてる電車に乗って帰るのも何だか嬉しかったし、食べてないお弁当が入ったままの鞄はいつもより重く感じた。
尾瀬くんから来ていた、「大丈夫?」ってメッセージには見てみぬフリをして、何の返信もしなかった。


だって、大丈夫じゃないから。

今、私、全然大丈夫じゃないから。


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