一輪の花を君に。
#8
ーside大翔ー


美空が、久々に帰ってきてくれたお祝いと、俺達のお別れ会を千鶴先生中心に開いてくれた。




「じゃあ、毎年恒例の卒業生の言葉を、1人1人もらおうかな。」





お別れの言葉は、毎年恒例のこと。





考えてきた言葉をそのまま読み上げることに抵抗があった俺は、何も用意せずに今に至る。






「大翔?



何も用意してきてないって、理人と翔太から聞いたけど大丈夫?」







香音が、小声でそう言った。







でも、自信はある。






「大丈夫。




それに、用意してないのは美空も同じだから。」








「え!?」







「じゃあ、美空からいいかな?」






千鶴先生は、早速美空を指名した。







「私…からですか?」





少し戸惑いながら、美空はゆっくり立ち上がった。






「美空の、退院祝いでもあるんだから。」






七瀬先生から、少し背中を押され美空は前に出た。






「えっと…。


私は、10年間ここで過ごしてきました。



最初は、人を信用出来ずに自分の殻に閉じこもって私は永遠と1人でいい。




本気でそう思ってました。




でも、ここにいる先生達や、私の主治医である中森先生に、人は誰かと繋がって生きていることや、支え合わないと生きていくことができないことを教えてくれました。




その言葉を聞いてから、私の気持ちは楽になりました。




親に愛されなくても、幸せになることはできます。





私が、そうだったように人生は何回だってやり直せる。





前を向いて、生きていくことが何よりも大切だと思います。





最後に、私達を温かく時には厳しく見守って、大切に育ててくれた先生方、それからいつも一緒にいてくれたここにいるみんなに感謝をしています。



本当に、ありがとうございました。」






「美空ちゃん!!


ずっとここにいてよ!



千華、美空ちゃんいなくなったら寂しい。」






千華ちゃんは、美空の来ているワンピースにすがり涙を流していた。






「千華?


永遠のお別れじゃないんだから、そんなに泣かないの。」





千鶴先生が、千華ちゃんをあやすけど泣き止む気配がない。






「千華ちゃん?」





そんな様子を見ていた美空が、千華ちゃんを連れ中庭へと向かった。






「千華ちゃん?


はい、どうぞ。」





「このお花は?」





「フリージアっていうお花だよ。」






「フリージア?」





「フリージアの花言葉は、親愛の情っていうの。」






「親愛の情?」





「千華ちゃんとは、ずっと仲良しでいたいからこのお花あげるね。



離れていても、会えないことはないから。




チューリップも、ちゃんと育ててあげてね。」






美空の言葉に、千華ちゃんの表情は一気に明るくなった。





さすが、美空だな。





「美空?



あなたも、忘れないでほしいの。」






「えっ?」






「辛くなったら、すぐにここに来なさい。



皆も、同じだよ。



辛いことがあったり、何かに悩んだり話したいことがあったらここに来なさい。





旅立つとは言っても、ここはあなた達の家でもあるんだから。




実家になるここに、帰ってきなさい。」
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