柏木達也の憂い

「美智子さんがこんな料理上手だって知らなかった」

そういった俺の言葉に数秒空けて、ポツリと美智子さんはつぶやいたのだ。

「私も知らなかったよ。達也くんが、あのコンペ出してるなんて」

その声が聞いたことがないくらい固くて、びっくりして料理から視線を移すと、そこには見たことのない表情をした美智子さんの顔があった。

これからのことについては、食べ終わってゆっくりした時に話そうと思っていたので、急にその話になったこともあり、焦ってしまって上手く言葉にできないでいると、困ったような辛そうな顔をした美智子さんが、ゆっくりと話始めた。

「ねぇ、なんで教えてくれなかったの?最近、ずっと忙しそうにしてたの、コンペのせいだったんでしょ?言いづらかった?先輩なのに、部長から声すらかかったことない私には。達也くんと違って小規模案件しかやらない私には。ねぇ」

ゆったりとした話し方に反して、その声には静かな怒りが感じられて、とにかくやばいとしか思えなかった。

なんとかして、この怒りを治めないと、と。


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