エリート上司の甘い誘惑

会えて良かったですけど。
と、酷くほっとした様子で、深く息を吐き出した。


「じゃあ、俺は帰るからな」


東屋くんに引き渡し完了、とばかりに手を上げてその場を去ろうとする課長に、慌てて声をかける。


「あ、高見課長! ありがとうございます!」

「おお、部長には東屋に無事引き渡したって報告しとくから」

「え、あ、いや。それは」


ど、どうなのかな、わざわざ言わなくてもいいような!
言葉に困っている間に、高見課長は私と歩いているときよりも明らかに軽やかな足取りで、帰っていった。


「なんで高見課長と一緒に? 部長に報告って?」

「えっと、なんか」

「なんです?」

「部長が、気にかけてくれてたみたいで。ほら、私前に園田に絡まれたとこ助けてもらってるから」

「ふーん」


たら、と首筋に汗が流れた。
明らかに東屋くんの声が拗ねている。


「もしかして、東屋くんもそれ心配して会社まで戻ってくれたの?」

「……普段目を光らせてる部長が留守で、絶対今日あたり浮かれきってんだろうなと思ってたんで」


ふい、と行先の方へ目を逸らし、歩き始めた東屋くんを追いかけて隣に並ぶ。


「あの」

「はい」

「ありがとう。気にかけてくれて」


そう言うと、ちらりと彼の目が動く。
見上げる私と目が合うと、ちょっとだけ頬を赤くした。


東屋くんでも照れたりすることがあるらしい。



「さよさんも大変ですね。園田みたいなのに好かれちゃって」

「好かれてるとかじゃないでしょ。声かけやすいからでしょ……私ってそんな、軽く見られてんのかなあ」



そんな流されやすそうに見えるのだろうか。
見た目? 雰囲気?


見るからにふわふわして見えるのだろうか。
だったら明日から黒縁眼鏡にひっつめがみで出勤しようと思う。


視力2.0だけど。

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