エリート上司の甘い誘惑
「何?」


内心、少しどきりとした。
彼も昨日、披露宴に出席していた一人だからだ。



「俺ももらおうと思って。さよさんの珈琲美味いから」

「そ。じゃ手伝って」



別にそれほどこだわってるわけじゃないけど、うちで余ってる電動ミルを試しに持ってきて使ったら、好評だっただけだ。


朝のうちに一日分挽いておいて、後はメーカーを使うだけ。
敢えてこだわりを言うなら、ちょっと粗挽きにしてあるから粉は少し多めに、ということぐらいだろうか。



「カップ出して」

「うぃっす」



砂糖とミルクを用意しながら、カップを並べる東屋くんの腕をついちらりと見た。


袖から見えたのは、クロノグラフの腕時計。
洗面所にあったのは、皮のベルトのフォーマルを意識したシンプルなものだった。


東屋くんが付けるには、少し大人びた印象だ。


まあ、もしかしたら、慶事用のものなのかもしれないけれど。
腕時計にこだわりがあるなら、使い分けで持っていてもおかしくはない。


でも、東屋くんは何事もなかったかのようにいつもの調子で話しかけてきた。
昨夜のキスの相手なら、何かしらあってもいいはずだし。


そう納得すると気が抜けた。
珈琲の香ばしい香りが給湯室に漂う中、少しの間互いに沈黙する。


砂糖入り、ミルクのみ、両方、と室内のメンバーを思い出しながらカップに用意していく。



「東屋くんはブラックよね」



ちゃんと覚えてるけど。
ちょっと沈黙が息苦しくて、間を繋ぐために口にした。



「はい。さよさん、全員覚えてるんですか」

「うん。毎日淹れてると覚えちゃった」
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