エリート上司の甘い誘惑
ブルームーンはもう縁起が悪いということで、ホワイトレディを頼むとまた部長に呆れられた。
バーテンがくれた紙ナプキンを使い、ずびずび鼻を啜りながらもちゃっかりカクテルを頼むところに呆れたのか、それとも凝りもせずアルコール度数の強いものを選んだことになのかはたまたその両方か。



「……で。どこまで覚えてる?」

「えっと……披露宴帰りにここでブルームーンをしこたま飲んで……愚痴を零し捲っていたら、誰かに会って」

「誰か、ね……」

「す、すみませ……」



部長が頬杖をしながら、隣に座る私の髪を悪戯に梳く。


それが気恥ずかしいやら記憶がないことが申し訳ないやらで、私は視線を泳がせている。



「他には?」



くるくるくる、と指先が私の髪を絡め取った。
Barという雰囲気ある空気も手伝ってか色香満載の目が、じっと私を見つめたまま追い詰める。



「えと……後は。その、家で」

「うん?」



家で、ベッドに押し倒されて交わした、濃厚なキスの記憶。
その相手が部長なのだと思えば、これまでで一番というほどに私の頭は湯だった。


とてもじゃないけど、部長の顔なんて見れない。
も一つ言うなら、キスの記憶はしっかりあるのに部長の顔は覚えてませんでしたなんて絶対言えない。



「あ、朝、目が覚めるまで、」

「ほんとに?」

「う……」



真赤になって俯く私の顔を、覗き込むようにして彼の顔が近づいた。



「熱がこっちまで伝わりそうに熱いけど。そうか、覚えてないか」


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