エリート上司の甘い誘惑


バッグを手に取り、肩に引っ掛ける。
柄の部分を握りしめて、思い切って顔を上げた。


「東屋くん、あのね」

「送りましょうか? 待ち合わせのとこまで」

「え、いい。それはいいんだけど」

「そう言わずに。あ、部長に見つかったらヤキモチ妬かれる?」

「いいってば。それより、言いたいことがあって」

「やです」


即座に返ってきた拒絶に、一瞬言葉に詰まった。
彼の横顔もまた、眉根を寄せて拒絶の色を隠しもしない。


「大体、言いたいことくらいわかります。でも聞いたらそこで終わりになっちゃうじゃないすか」


大人びた、男らしいところもある。
でもやっぱり、弟みたいに憎めない、子供っぽいとこもあるな、とつい苦笑いをする。


「……なんですか、その。余裕の笑みは」

「え? 余裕、ってわけじゃないんだけど」

「余裕にしかみえません」

「ありがとう、と思って」


私の言葉に、彼はぱちくりと、目を瞬かせた。


「ありがとう。好きになってくれて、嬉しかった」

「さよさん」

「東屋くんみたいな素敵な人に好きになってもらえたことがあるって思い出したら、この先落ち込むことがあっても少しは自信が持てると思う」


気持ちは本当に、嬉しかった。
事実、失恋で自信を無くしていた時だったから、彼の気持ちに勇気をもらえた部分もあったと思う。


彼の好意には応えられなかったけれど、この気持ちだけは伝えておきたかった。


暫しぽかんとしていた彼は、やがてゆるゆると眉を寄せ泣きそうな表情をする。
それから最後は、気が抜けたように苦笑いをした。

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