エリート上司の甘い誘惑
「あー……、そう。それなんですけど」

「うん」

「悩み、っつうかちょっと、こうして話したくて。さよさんと」



少し照れ臭そうに、彼が横髪を掻いた。
どういうことだ、と訝しんでつい眉根が寄ってしまう。



「なんか、こうしてさよさんと食事するだけで、初心に戻れたような気はします」

「気はします、って。それじゃなんも解決してないじゃないの」

「あ、そんな。怒んないでくださいよ」



ほらほら食べて、とまた一切れピザが乗せられる。
それで機嫌が取れると思っているなら失礼な話だ。



「ちょっと悩んでたのは本当です。ずっと営業やってると、上手く行っててもなんかこう、段々感覚がおかしくなっていくというか……少しずつ、要領がよくなっていくじゃないですか。

 取引先との会話にも慣れが出て来て、ふと気が付くと、大事な部分が初めの頃よりぞんざいになってたり」

「あー……言いたいことはなんとなく。わかる」

「なので、今日はさよさんと食事が出来て良かったです」

「そこはわからん」

「入社したばっかりの頃、何度か昼飯一緒したじゃないですか」



なるほど、それで”初心に戻る”か。
と、納得して頷いた。



「リフレッシュツールみたいなもん?」

「そうそう」



何か、模索している時期なのだろう。
だとすれば、初心に戻ろうという心意気は中々のものだ。


大抵は、そういう時には焦って前へ前へ行こうとする。



「なので、たまに食事付き合ってくれると嬉しいです」

< 32 / 217 >

この作品をシェア

pagetop