エリート上司の甘い誘惑
ばいばい、と手を振ってタクシー乗場に駆け出すと、気付いた運転手がすぐに後部のドアを開けた。
乗り込もうとした、その寸前だ。
くんっ、と腕を後ろに引っ張られた。
「待ってくださいって、あのっ、」
外灯の真下で、少し茶色がかった髪が尚更明るく目立つ。
その髪をくしゃくしゃっと掻きながら、彼は一度言い澱む。
いつもはハキハキと喋るタイプなのに、珍しい。
「何よ、どうしたの?」
「さよさんも」
「へっ?」
「何かあったら、何でも聞きます、俺」
突然何を言い出すのかと、頭がついていかなかった。
私みたいに会話がぴょんぴょん飛ぶほどに、彼は酔ってるようには見えなかったが。
「えー……と。何かって」
「悩みでもなんでも、憂さ晴らしでも」
なんで急にそんなことを言うんだろう。
大体今日だって、悩みがあるから聞いてくれと言ったのは彼の方だ。
「私、なんか悩んでそうに見える?」