エリート上司の甘い誘惑
なんでバレたかっていうと出社してすぐに部長に昨夜のお礼を言ったら、真後ろに東屋くんが居た、という。


なんか、東屋くんって気がつけば後ろにいること多くてちょっと……。
いや、気持ち悪い、とまでは思わないけども。


うん、ちょっと面倒くさい、というか。


「昨日、俺が誘ったら嫌だって言ったくせに」

「仕方ないでしょ。残業で遅くなったら、接待から戻ってきた部長と一緒になったから……上司としては食事でもって社交辞令だろうし、部下としては断れないし」


私の腹の虫を聞いて無視できなかっただけだろうけども。
例え社交辞令でも藤堂部長のお誘いなら断るなんてありえないし。


「部長はなんで、接待からわざわざ会社に戻ったんですか。普通、そのまま帰るよ」

「……それは、知らないけど」


……そういえば、そうだ。
もしかして、珍しく残業してる私が気になって戻って来てくれた?


とか?
いやいやそんな。


そんな、わざわざ。


「……さよさん、口元緩んでますよ」

「そんなことないわよ」


きゅっ、と唇の端に力を入れ直す。
東屋くんは相変わらず仏頂面だ。


「いつまでも拗ねないでよ。別に東屋くんが嫌だってわけじゃなくて、昨日はたまたまでしょ。はい、これで全部!」


最後のファイル二冊を、どんっと彼が持つファイルの上に重ねた。



「じゃあ、今日は俺とご飯」

「そんなにしょっちゅう、リフレッシュって必要?」

「必要なの、俺には」



嫌だと言わなかったから、了承と彼は受け取ったらしい。
ようやっと、いつもの懐っこい笑顔が戻った。

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