エリート上司の甘い誘惑
「できれば、という話だ」

「そ、そんな」



できれば、なんて言うけれど。
部長が言葉にした、ということは私にそういうことをさせようと思って今日連れてきた、ということだ。



「何事も経験だろう。出来るところでしておかないと、積める経験値を逃すことになる」



そ、それはそうかもしれないですが。
というかその通りですが!


資料に目を落とし、さっきまでとは全く違う意気込みでもう一度頭から文字を目で追う。
この内容を説明してもらい、理解することが今日の私の仕事なのだと思っていた。


部長のオマケに過ぎないと思っていたのだ。


だけど、何かほんの僅かなことでも発言しなくちゃいけないなら、理解が足りない。
もっと内容を、わかる範囲ででも整理しておかないといけない。


シャープペンを片手に資料を睨んでいると、聞き覚えのある声が部屋に入ってくるのがわかり、つい目線が扉の方を向いた。


園田だ。
そうか、園田も出席予定となっていたのかと初めて知る。


同時だったのか、向こうが先だったのか、ばっちりと目が合ってしまった。
睨むような物言いたげな視線に驚いて、ペンを持つ手がぴくっと跳ねる。


その時、ぽん、と頭に軽い衝撃。



「………
…余所見しないで、集中」



部長の手が、私の頭に落ちたのだ。
そのまま資料まで手を降ろし、指でとんとんと叩いた。
< 94 / 217 >

この作品をシェア

pagetop