イケメン御曹司のとろける愛情
『CD、出してないんですか?』

 そう声をかけてきたのは、ライトブルーの作業着姿でキャップを目深にかぶった男性だった。ファッションビルには不似合いだなと思った。表情はよく見えなかったけど、すっと通った鼻筋と意志の強そうな口元が印象的だった。その男性の姿が……会場の横に立っている翔吾さんの姿と重なる。

 今頃思い出すなんて。あの人が翔吾さんだったんだ。翔吾さんは彼が言った通り、私に声をかけてくれていたんだ。

 私はなんて答えたっけ? 女子大生っぽいグループに『一緒に写真撮っていいですか?』って話しかけられて、急いで答えたんだ。

『CDは出してないんですけど、デジタルミュージックサイトで音楽ファイルを購入できます』
『ありがとう』

 そう答えて彼は去っていった。すぐに女子大生に取り囲まれて、記憶から抜け落ちてしまっていた……。

 なんてことだろう。

 ステージ横の階段から下りたとき、翔吾さんが近づいてきた。今日の彼はカジュアルなホワイトシャツに細身のデニムジーンズという格好だ。羽織っているライダースデザインのブラックショートコートがものすごく似合っている。
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